厭世日誌

だなはのいせんじはみしなかみしるく

人々

あまりに単純で軽率で軽薄で浅薄だし、他人の命なんかどうでもいいんだろうな。誰とでも寝て誰にでもいい顔して病人でありたい同士傷舐め合って、何か作った気になって、汚くて気持ち悪いな。周りに甘えて生きるのは楽しい?せいぜいそこにいればいい。わたしは関わりたくない。

明滅する自由

この部屋からは星が見えない。口笛。日中は美容院へ行った。秋頃から伸ばしていた髪を短く切って、少し心も軽くなった。五年ほどカットをお願いしていた美容師さん、妊娠したらしく来月で退職してしまうとのこと。お腹の中にもう一人の命が入っているだなんて!神秘的で、奇妙で、少しこわい。美容院を出て、図書館へ向かう。読み終えた本二冊を返却する。今日はそれくらい。帰ってきてしたことといえば、アイスティーを作っておくこと、スープとサラダを作ること、浴室の掃除、水出しコーヒーの準備。それくらい。掃除は控えめ。最近は気力がなく、シャワーで済ませてしまうことが多い。本当は自律神経のためにも、しっかり入浴するのがいいのだけれどしょうがない。一週間ほど前、突然両手に現れた、多形滲出性紅斑は少し良くなってきた。ひとあんしん。眠くて眠くて、何も書くことがない。おやすみなさい。良い夢を。これから生まれ出る全てのいのちに幸あれ

わずかに有無に渉れば喪身失命せん

何かを見ようとするたびに、私の脳は故障する。トラックの後ろに乗ってみたい。誰にも使われなくなった線路の上に寝そべってみたい。右、左、右、左、振り子が揺れる。私の鼓動が同期する。右、左、1……2……、右、右、右……。身体の中に臓器が詰まっているだなんて、信じられる?真っ赤?黄色い、オレンジ。あまりに矮小な身体、あまりに希薄な自我。私に自我はある?今夜は曇りだから、ほんの少し調子がいい。悲しい話はせずに眠れそう。どこか遠くへ行きたい。ありきたりで結構。今は何も聴こえない。破裂音に邪魔される心配も、空想の女の子の声も、私を否定する声も、何も聴こえないから、大丈夫、きっとよく眠れる。錆びた日々を何食わぬ顔して遣り過ごす。大丈夫大丈夫、大丈夫。君は大丈夫。私が保証する。鼓動の音。電車の音。再構築する。

夜のふち手を合わせぼくら泣いたりなんかもせず

あなたのことがわからない。煙が目に染みる。雨音に焦燥感が加速する。何もわからない。どこへいけばいいのか、ここにいてもいいのかも、何も。あなたのことがわからないと言いながら、本当にわからないのは自分のことなのかもしれない。眠ろうとすると、声に邪魔をされて眠れない。酷い幻聴に苛まれ、眠りが浅いまま、朝を迎える。朝が来るのが怖い。明日も明後日も、あなたがこのままだったらどうしよう、と、怯えながら眠るのは、なんて、惨めなのだろう。私に興味のないあなたが怖い。私がおかしいのかもしれないね。私の気が狂っているだけなのかもしれないね。入院しなくちゃならないのは、私の方なんだろう。本当に?私は誰よりも正気だよ。私は、私だけが嘘じゃないと思っているのに。私は、いつだって嘘も吐かずに生きてきたのに。海を泳ぐさかなと同じくらいに正直に。私はどうしてここで生きているのだろう。いつか、何か変わるのか。帰りたい、帰る場所がない。空気をうまく吸い込めない。どこで変わってしまったのだろう。夜のふちはどこ?見つからないように隠したよ。見つけてしまったその時は、私のことを助けてね。宇宙。大仏?ほら銀の底にぼやける。天使が。息をひそめて立ってるね。助けてね。

 

六月最後の夜に

疲れが重なっている。右腕が上がらない。早朝に吐き気で目覚めて、それからは一睡もできなかった。

ランプに積もる、埃みたいな日々。窓から微かに入ってくる、冷たい風が心地よい。湿度が高いと自分に黴が生えてしまうのではないかと心配になる。多分まだ大丈夫。しなければならないことが山ほどあるうちは。

この時期はドライボックスの中身が心配で、何度も湿度計を確認してしまう。カメラに黴が生えるのが一番怖い。たまにはフィルムカメラも持ち出して使わないと。やっぱり眠剤を飲んだ後はどうしても文章が支離滅裂になる。うっすらと破裂音もする。どうしようもないのだと思う。声は今日は聞こえない。右腕が痛い。夜眠る前に必ずお香を焚くこと。(ただし、風邪の時は焚かなくともよい。)瞼が重い。キッチンから、食器を洗う音が聞こえる。食器同士がぶつかる音。水がシンクにぶつかる音。音。私はそれをきいて、なぜか少し寂しくなる。部屋に迷い込んだ蜘蛛みたく。蜘蛛、蜘蛛は優しいとブローティガンは書いていた。すべての優しい蜘蛛たちよ。わたしもそう思う、少なくとも、心ない人々に比べたら、それはもう、はるかに。どうしてこんなことを言うのだろう、どうしてこんなことを言ってしまったのだろうの繰り返し。ぼくらは何も学んじゃいないんです。ぼくら、ただ愚かしくも人間の、いや、神様の真似事をしているだけなんです。赦してください。ますか?かなしいかなしい人間です。人間なのでしょうか。人間でなければ、なんなのでしょうか。誰か教えてくれませんか?わたしはもう、眠たいのです。歩く音。廊下を歩く音がする。雨に濡れた道路を車が走る、音もする。ハードディスクの点滅するあおいライト。デスクのランプ。少し明るすぎるランプ。パソコンの、液晶の光。今井三絃の天竺と馬脚を聴いている。私を私がみている。俯瞰の私は私なのだろうか。わたし、わたし。もうダメみたい。おやすみなさい、また明日。八百万匹の蝶々。